消費税の8%から10%への増税が再度延期されました。売買金額の大きい不動産取引についてはその影響が大きいといえます。
さて、マンションや一戸建てなどを購入する場合、物件の購入価格に加えて消費税の支払いをする必要があります。
では、その不動産を売った時の消費税はどうなるのでしょうか?
そこで、このページでは…
・そもそも消費税の課税の仕組みはどうなっているのか?
・不動産を売ったのが個人と法人ではどう違うの?
・売った不動産がマイホームと賃貸用ではどう違うの?
・不動産を売っても消費税を支払わなくてもよい場合とは?
・不動産を売る時の諸経費の消費税は?
などなど、不動産売買の消費税についてくわしく説明いたします。
なお、親から相続した不動産を売却した場合には特例事項がいくつかあります。そのような場合は以下のページもよくお読みください。↓
CHECK 親から相続した不動産を譲渡した時の特例
目次
消費税が課税される場合、されない場合
誰が何をしたら消費税の課税対象となるの?
私たちは、商品を購入した時やサービスを受けた際に、その代金に消費税額を上乗せして支払いをすることで、消費税を負担しています。
しかし、すべての取引が消費税の課税対象となっているわけではありません。
「誰が」「何を」したかによって、消費税の対象となる場合とならない場合があるのです。
実は違います。
まず、「誰が」についてですが、消費税の対象となるのは、国内において「事業者」が「事業」として利益を得て行う取引です。
では、「事業者」とはどういう人のことでしょうか?
それは、「事業」を営む個人である「個人事業者」と、会社である「法人」をいいます。
そして、その「事業」とは、同じ種類の行為を継続して何度も行うということです。
要するに、「プロ」としてお金を稼ぐための活動すると「事業者」になり、消費税を払う必要があるということです。
法人はそもそも利益を得るために設立されたものです。そのため、活動はすべて「事業」であり、法人は「事業者」となります。
一方、個人は、お金をもらわず活動したり、もらったとしてもその道のプロとしてではなく、たまたま「頼まれてしまったから活動した」ということもあるでしょう。これは「事業」ではありません。
つまり、個人がたまたま何かを販売して代金を受け取ったとしても、それが何度も繰り返されなければ「事業」ではないので、消費税の課税対象とはならないのです。
たとえば、個人が自家用車や家財道具をたまたま売った場合には、別に事業として行う取引ではないため、消費税は課税されないのです。
一方、同じ個人が、自動車販売業者として繰り返し自動車を販売した場合、それは事業者が事業として行うことなので消費税の対象となるわけです。
消費税の課税対象となるもの、ならないもの
事業者が事業として行った取引であっても、必ずしも消費税の課税対象となるわけではありません。
中には、その取引自体が消費税の課税対象とならないものがあります。
「土地の売買」や「保険料の支払い」は、誰が取引をしたとしても消費税の課税対象にはなりません。これは「消費する」ということではないからです。
また、「学校の授業料」や「住宅の貸付け」についても、誰が取引をしたとしても消費税の課税対象にはなりません。
こちらは「さすがにそこまで課税するのはかわいそうだ」という社会政策的な配慮によるものです。
消費税の納税方法
消費税の課税対象となる取引がされると、売買代金に上乗せして消費税額が買主から売主に支払われます。
では、この消費税額はどうやって国に納付されるのでしょうか?
実は、買主から預かった消費税額を売主が国に納付をします。
こうすることでちゃんと買主が負担した消費税額が国に納められます。
一方の売主は、消費税を確かに国に納付はしましたが、それは単に買主から預かっていた消費税額を代行して支払っただけで、自分で負担をしたものではないのです。
ですから、もし、事業者となり消費税の課税対象となる取引をして消費税を納税したとしても、実は売主はその金額を自分で負担したわけではなく、買主から預かっていたお金を代わりに国に支払っただけであるということを覚えておいてください。
不動産を売って消費税が課税される場合とは?
不動産を売って消費税の対象となる人、ならない人
では、不動産を譲渡したときの消費税はどうなるのでしょうか?
消費税の課税の基本ルールは、
(2)その課税対象者が、消費税の課税対象となる取引した時に、はじめて消費税の課税対象となる
ということです。
ですから、個人がたまたま自宅などを譲渡した場合には「事業」ではないため消費税の課税はされません。
一方で、法人や個人であっても自分で事業に使っていたり賃貸していた不動産などを売った場合には、「事業」の一環として譲渡したものなので、消費税の課税対象となるのです。
不動産のうち消費税の課税対象となるもの、ならないもの
不動産の売買については、建物は原則として消費税の課税対象ですが、土地は非課税です。
ですから、一戸建ての住宅を売った場合、そのうちの建物部分の金額は消費税の課税対象ですが、土地の部分については非課税となります。
では、マンションはどうでしょうか?
マンションの価値は、建物部分とその建物が建っている「敷地を利用することができる権利」から成り立っています。
マンションの場合も、建物部分は消費税の課税対象ですが、「敷地の利用権」は土地と同様に消費税は非課税となるのです。
つまり、まとめると
→ 事業者ではないので、土地、建物ともに消費税対象外
▶法人や個人が自分の事業用や賃貸用で使っていた物件を売った場合
→ 建物部分:消費税課税対象
→ 土地部分:消費税非課税
となります。
では、ここで不動産売買をした場合の消費税の取り扱いについて、物件の種類ごとにもう少しくわしく説明してみましょう。
自宅や別荘を売買した場合
個人が自宅や別荘を売却するというのは、「たまたま売ったもの」なので事業には該当しません。
ですから、もし個人がマイホームを譲渡した場合などには、そもそも消費税は課税されないのです。
つまり、「個人間のマイホームの売買」については、消費税の課税対象外であり、両者の間で消費税のやりとりはなく、国に消費税を支払う必要もないということです。
そうなんです。
「個人間のマイホームの売買」については国に消費税を支払う必要はありません。
しかし、不動産業者などの「法人」が同じ居住用の建物や別荘を譲渡した場合、法人は「事業者」であるため、消費税の課税対象となります。
ですから、不動産業者などからマイホームを購入したら、物件の購入価格に消費税額を上乗せして支払いをしなくてはなりません。
つまり、同じ居住用の建物であっても個人から購入する場合には消費税の上乗せしてをしなくてもよいのに、事業者である不動産業者から購入する場合や建築業者に建築を依頼した場合には、消費税分の上乗せをして支払いをする必要があります。
このように「買った時」には誰から買うのかによって消費税の課税は変わりますが、個人がマイホームや別荘を「売った時」には、消費税は関係しないのです。
事業用や賃貸用の建物を売買した場合
法人はもともと「事業者」ですから、どんな建物を売っても消費税の課税対象となります。
一方、個人は、自らの事業用に使っていた建物や賃貸していた建物を譲渡した場合には、「事業者」の活動の一環として譲渡をしたことになるので、消費税の課税対象となります。
なお、賃貸していた建物を売った場合の消費税については、その建物の用途が居住用であるか、事務所や工場などの事業用であるかは関係がありません。賃料を得るために貸していた建物であれば、どちらも消費税の課税対象となります。
消費税を預かっても納めなくても良い場合
消費税の免税事業者制度とは
その不動産取引が消費税の課税対象だとしても、必ず消費税の納税をしなくてはいけないわけではありません。
…というのも、「消費税の課税対象となる取引をした」ということと「消費税の納税義務がある」ということは必ずしも一致しないからです。
実は、消費税には「免税事業者制度」というものがあります。
これは、消費税の課税対象取引の金額(課税売上高といいます)が「一定金額」以下であれば、「免税事業者」となり消費税の納税をしなくても良いというものです。
つまり「一定金額以上の課税売上高がない会社は、消費税の納税が免除される」ということです。
なぜこのような制度があるのでしょうか?
それは「少額の取引しかない事業者には、消費税の計算・申告は大変だろう」という配慮によるものです。
では、その消費税の納税義務があるかないかはどのように判定するのでしょうか?
消費税については「基準期間」の課税売上高が1000万円以下であれば、消費税の納税義務が免除されます。
この「基準期間」とは、その消費税の計算をする事業年度(個人の場合毎年1月1日から12月31日)の「2期間前の事業年度」のことなのです。
(ちなみに…)なぜ「基準期間」が2期前なのか
なぜ2期前の事業年度で判断をするのかというと、理由があります。
消費税の納税義務のある「課税事業者」は納付する消費税額を計算できるよう経理処理をしなくてはなりません。
逆に、消費税の納税義務のない「免税事業」は消費税の経理処理は不要です。
ですから、その年度の課税売上高で消費税の納税義務の有無を判断しようとすると、一年が終わって集計してみたら「免税事業者だと思ったら課税事業者だった」ということにもなります。
そうなると、遡って一年の始めから消費税の経理処理をしたり、得意先に消費税の請求をしなおさなくてはなりません。
では、前期の事業年度の課税売上高で判断しても良いのではないか?
前期の課税売上高が確定するための決算と確定申告は、事業年度が終了してから2ヶ月以内に行われるので、既に当期が始まってしまっています。これではやはり事業年度の始めから課税事業者として経理処理をすべきかが判断できないことになります。
もし、その事業年度の始まりの時点で、その事業者は消費税の納税義務のある「課税事業者」としての経理処理を行う必要があるかどうかの判断ができるようにするには、最低でも2期前の事業年度の課税売上高とする必要があります。
そのため、「原則として」その事業年度の消費税の納税義務の有無を判断するのは、その2期前を「基準年度」とし、その年度の課税売上高で判断をすることになっているのです。
つまり、「基準期間」である2期前の事業年度の課税売上高が1000万円以下であれば、いくら多額の事業用や賃貸用の建物を売ったとしても消費税の納税義務はないのです。
益税問題とインボイス方式
前に、「消費税の課税対象となる取引をした」ということと「消費税の納税義務がある」ということは必ずしも一致しないと書きました。
つまり、消費税の課税対象となる取引をしたとしても消費税の納税義務がないこともあるということです。
たとえば、事業用や賃貸用の建物を譲渡した場合には、その取引自体は消費税の課税対象のため、売主は買主からその建物代金についての消費税額を預かります。
本来、その金額は売主から国に納税されるはずなのですが、売主に消費税の納税義務がなければ、消費税を支払う必要はありません。
結果的に、買主が支払った消費税額はそのまま売主の手許に残ってしまうことになります。
これが、「消費税の益税」問題です。
免税事業者制度は、消費税導入当時の反対が根強く、消費税の仕組みも理解されていない中で、少しでも導入しやすいようにと制定されたされたものですが、既に消費税導入から30年近くが経過し、その仕組みは十分理解されており、現在では、もうその役割は終わったともいえます。
一方で、消費税の税率が3%当時に比べて8%となり、益税の金額も大きくなっています。
今後10%ないしそれ以上に消費税率を上げる際には、より益税の金額も大きくなり、税率を上げるならその前に益税問題を解決してからにせよという批判も出てくるはずです。
そこで、消費税の免税事業者の取り扱いについては、平成35年から「インボイス方式」というものに変更されることが決まっています。(※1)
これにより、免税事業者は消費税分を上乗せして預かることができなくなります。
つまり、平成35年以降、もし売主が免税事業者である場合には、買主は建物を購入する際に消費税額を上乗せして支払うことがなくなるのです。
※1 経過措置もあり、徐々に移行されていきます
忘れがちな譲渡費用の消費税
不動産を譲渡する場合の諸経費である「譲渡費用」についても、消費税の課税対象となるものと課税対象にならないものがあります。
下記にまとめてみました。
課税あり | 課税なし |
・仲介手数料 ・繰り上げ返済手数料 ・司法書士依頼料 |
・抵当権抹消の登録免許税 |
(1)仲介手数料:課税対象
買主をみつけてもらうために不動産会社に支払う仲介手数料は、消費税の課税対象となります。
(2)繰り上げ返済手数料:課税対象
不動産の売却をする際に、融資を繰り上げ返済をすることがあります。その際には、金融機関に「繰り上げ返済手数料」を支払うことが多いですが、その手数料も、消費税の課税対象となります。
(3)抵当権抹消の登録免許税:課税対象外
不動産を売却する場合、いわゆる担保である「抵当権」が登記されていた場合、その抵当権を抹消してから売却をすることがほとんどです。
その際の登録免許税については、消費税は課税対象外です。
一方で、その手続を司法書士に依頼した場合の報酬については消費税の課税対象となります。
不動産を売却する場合には、一般的に「譲渡対価の4%」程度の譲渡費用が掛かると言われています。
3000万円 × 4% = 譲渡費用120万円
それらの譲渡費用について、消費税額の上乗せがされるということを覚えておきましょう。
この記事のまとめ
・土地は誰が売っても消費税の課税対象外、建物は原則課税対象だが誰が売るかで変わる
・個人がマイホームを譲渡しても、土地・建物ともに消費税の対象外
・個人でも事業用や賃貸用の建物を譲渡したら消費税の課税対象に
・消費税の課税対象の取引をしても必ずしも消費税の納税義務があるわけではない
・「基準期間」(2期間前の事業年度)の課税売上高が1000万円以下なら消費税の納税義務はない
・買主が支払った消費税が国に納められない「益税問題」を解消するため、今後「インボイス方式」への変更が予定されている